ピアノ技術・整調

整調・・・お聞きになったことのない方もいらっしゃるかも知れません。ピアノの音律を正しく整えるのが「調律」ですが、ピアノ内部にあるアクションと呼ばれる機構を正しく整えるのが「整調」となります。

ピアノ内部にはアクションと呼ばれる複雑な機械が入っています。アクションのうち、普段目に見えている部分は、ピアノの鍵盤とペダルだけになりますが、それらに演奏者が力を加えたときに、その繊細な動きを弦を打つをハンマーまで正確に届けられるか、その点を担うメンテナンスが整調です。
鍵盤を押さえ、それをハンマーに伝えるためだけなら簡単な機構で済むはすです。しかし、ピアノは最大の特徴である音の強弱、そして連続打鍵(連続して音を出せる)を可能にするために、非常に複雑な機構を持つ楽器になりました。そしてピアノがその形に完成してもう何百年もアクションの形は変わっていません。
アクションはその材質を楓、樫、鹿革そして鉄や木綿の紐などで形作っており、部品それぞれはさまざまな円運動を繰り返して、鍵盤を押したエネルギーをハンマーに伝えていきます。
その材質ゆえ、季節の移り変わりや湿度・温度変化の環境によって、アクションを構成する部品は少しずつ正確な位置からずれていきます。これは調律が少しずつ狂っていく理由とまったく同じです。

アクションがずれていくとどういうことが起きるのでしょうか。
まず演奏者が気付かないレベルで、表現力がなくなっていきます。フォルテを出したいところで音が強く出ず、ピアニッシモで出そうとそっと鍵盤を触れたら音が出なかった・・・。そんな症状が起こってきますが、同じピアノだけを弾いている演奏者にとっては、少しずつのずれに毎日慣らされていくので、元のピアノの表現力がどれだけあったか忘れてしまうことが多いのです。しかし確実にピアノの表現力(指先に対するピアノの呼応力)は失われていきます。
どれだけ表現力のある人が弾いてもそれに応えられないピアノの状態になってくるのです。

さらにアクションのずれが大きくなると、演奏者も気付かざるを得ない状態が起こってきます。
音が「ポポン」と二重になることがある。
弾いても音が出ない時が出てくる。
鍵盤の重さ軽さがばらばら。鍵盤の高さが不ぞろい。
ペダルを踏んでも反応がおかしいなど・・・。ここまでくるとかなり重症です。

これらの狂いをアクションの部品を正しい位置に戻すことで改善する技術を「整調」と言います。
整調作業にはきちんとした順番があり、ミリ単位やさらに細かい基準に沿って作業を進めていきます。一つの鍵盤に対して24工程の作業がありますが、普通はその中の主要9工程が行われます。

アクションのずれは日々少しずつ積み重なっていきますので、毎日ピアノを弾いている自分ではそのずれ に慣れてしまい、ピアノが弾きにくい状態になっていることにも気付かないことが多いのですが、整調をしたあとのピアノを弾けばアクションのずれが大きかっ たピアノほど、その違いは一目瞭然です。
調律をして音律が正しくても、整調が狂っていれば、そのピアノの表現力は半減してしまいます。コンサートの前などは必ず行われる作業ですが、ご家庭のピ アノの場合はピアノの年齢が10年未満なら3年に一度、それ以上のピアノであれば2年に一度以上行われるとよいと思います。